EP 2 開始

「着いた着いたー!どこだここ?」
「さー?見た事ねえし。」
「遊園地みたいやけどな…。」

鳳達を乗せたバスは目的地に着いたらしく車を停車させると乗員を下ろした。
降りる際に全員にブレスレットのようなものが配られた。
皆不思議そうな顔をしたが軍人は「絶対に失くすな」とだけ言い、それ以上の事を話すつもりはないようだった。
この状況で軍人から支給されたものを失くすバカはいない。皆しっかりと握りしめてバスを降りた。

バスを降りてきょろきょろと周りを見渡した。木が淵に沿って植えてあるだけの何も無い広場だった。
数メートル先には高くそびえ立つ壁があり、壁には巨大なスクリーンと看板が貼付けられている
ここに至るまでにバスの中からジェットコースターのレールや観覧車が見えたからここが遊園地であることはわかった。
だからここで降りた時はワクワクしたものだが、降りて数分もするとその気持ちは逆に不安感に変わる。
アトラクションが動いている音がしてこない。遊園地前にいるとは思えない静けさだ。
遊園地前ならば園内から歓声など聞こえてくるものだが。そのような声も一切聞こえない。おそらく園内に人は居ないのだろう。
聞こえてくる人の声は自分たち同様にこの場所へつれてこられた学生たちの声だけ。皆ひそひそとささやき合うように話していた。

「跡部達探そうにもこの人の山じゃあなあ…。」

周りをきょろきょろと見渡しながら呟いた宍戸の言葉を忍足が拾う。

「せやな…。とりあえず電話してみよか。気付くとええけど…。」

忍足が電話をかける横ではジローが向日に話しかけている。

「遊園地じゃーん!なになに?もしかして今から遊ぶの!?」
「知らねーよ。っつーかジロー!お前いつまでそのカッコでいんだ?」
「へっ?…あー、なんでオレパジャマなの?」
「お前がずっと寝てたからだよ!!!…ったく。ホラ、お前の制服!」
「持ってきてくれたんだ~!へへ、がっくんありがとーっ!」

向日から制服を受け取ったジローがいそいそと着替え始める。
男も女も大勢がいるこの場所で着替える事に抵抗はないのかと考えたものの、パンツ姿で普通に歩いていることに比べたら全然マシだということに気付いて失笑した。

「あれ?がっくん、ベルトないんだけど。」
「見つからなかったんだよ!しかたねーだろ!」
「へーい…パジャマ邪魔ー。がっくん持っててー。」
「何でだよ!!自分で持ってろ!」
「え~…。」
「ジローさん、俺が持ちましょうか?」
「マジで!?おーとり頼む~。」
「ハイ。」
「長太郎甘やかすな。てめーの荷物くらいてめーで持たせりゃいいんだよ。」
「まあ荷物といってもコレ(服1枚)だけですし…。」
「お前はホント甘いな…。」

宍戸が呆れた顔になったところで、通話を終えた忍足がタイミング良く戻って来た。

「跡部と連絡とれたんやけどな、どうも俺らと同じ場所にいるっぽいんやけどここで合うのは難しいから後で落ち合おうって。樺地と日吉が一緒に居るみたいやで。」
「ってことは正レギュ全員集合か!」
「そんでな、とりあえず氷帝テニス部を集められるだけ集めておけと…。」

パーッパパパパーッ…

忍足の言葉を遮って突如ファンファーレが鳴り響いた。このメロディは王様が挨拶をするという合図。

音と同時に巨大スクリーンに映像が映し出される。王様が高級そうな椅子にゆったりと腰掛けていた。
彼はコホンと咳払いをして口を開いた。

『えー、諸君、集まってくれてありがとう!』

「てめえが集めたんだろうが」という苦々しげな呟きが到る所で聴こえた。
軍人に聞かれたら反逆罪で連行されかねない発言だが、幸いこの場に軍人は居ないし生徒の誰もが思っていたことなので咎められることはなかった。

『諸君を集めたのはね、今朝のニュースで言ったとおり鬼ごっこをしてもらう為なんだよね。朝早かったから放送を見逃した人もいるかな?まあ安心してくださいね。ルール説明はこれからしますから。』

教師のような物言いがいちいち癇に障る男だ。無理矢理連れてこられた今のような状況で聞くと特に。
鳳が見る限りでは宍戸と忍足が静かに怒りをこらえているのがわかった。
ジローはわくわくと画面を見て向日は口を開けてぽかーんとしていた。
だがそれも次の瞬間、皆一様に表情が凍り付くことになる。

『これから君たちが行うのは命をかけた鬼ごっこです。』

誰もが沈黙する中、王の言葉だけが響き渡る。

『鬼ごっこは今日から7日間。1日1回、1時間行います。1時間のあいだ鬼に掴まらない様にしっかりと逃げてください。ゲーム開始時間は毎日バラバラですがとりあえず夜はやらないので安心してくださいね。睡眠をとらないと逃げられませんからね。鬼ごっこ時間以外は基本的に何しても自由でーす!』

『ゲーム中に残念ながら鬼に掴まっちゃった人は明日の朝、鬼ごっこ開始時に処刑しまーす!あと鬼に掴まったら処刑場まで連行されますが抵抗はしないでくださいね。抵抗した場合はその場で処刑して良いという命令を下してますから。』

『それから鬼ごっこの範囲ですが、今みなさんが居る街まるまる1つが範囲になります。この範囲をエリアと呼びます。エリアの境界には軍人が立っていますから出ないようにしてくださいね。出たら射殺されますよ。』

『そして皆さんに手渡したこのブレスレットですが…。』

王様はそういうと手元から黒色のリングを取り出した。
バスを降りる際に全員に配られたのと同じものだ。

『皆さんはコレを着用してください。コレには発信器がついていて鬼が皆さんを探し出す手がかりになります。』

「ふざけんな、そんなもんつけるわけねーだろ」とヤジが飛ぶ。それはそうだろう。コレを着けていれば鬼に狙われるとわかっていて着ける理由などない。

『あ、捨てようなんて思わないでくださいね。このブレスレットには君たちの名前がインプットされています。ブレスレットが捨てられていた場合はゲーム拒否とみなし、捨てた者を時間外でも必ず探し出して処刑します。落としたり無くしたりしたらその時点で命は無いと思ってくださいね』

『でもね、このブレスレットは君たちにメリットももたらしてくれるんですよ。鬼が近づいたら警告音が出ますからね。音が出たら鬼が近くにいる証拠。逃げてください。……まあ、鬼も音を聞いて追いかけてきますがね』

『それとエリア外に出た場合も警告音を発します。それと同時にブレスレットが振動し、青色に光ります。光るのは20分。その間にエリア内に戻ってください。戻れなかった場合は今度は赤色に点滅します。これは5分。合わせて25分以内にエリア内に戻れなかった場合、ゲーム拒否とみなして処刑します。』

つまり逃亡すれば死ぬということだ。ブレスレットがある限り逃亡できず、ブレスレットを捨ててもゲーム拒否と見なし殺される、ということは皆理解した。
…いや、言っていることは理解できたが心はついてこない。

『どうです?ルールは理解できましたか?毎日1時間鬼ごっこをする。逃亡やブレスレットの紛失は参加拒否とみなし、鬼ごっこ時間外でも捜索・処刑。エリアは街中ですがエリアを出ても25分以内なら戻れます。超えたら処刑。まだルールがわからない子は近くのお友達にきいてくださいね。
それでは皆さん、ブレスレットをつけてくださーい!』

「着けろったって…。」

宍戸がブレスレットを手にもって眺める。

「こんなん言われて着けたくないよな…。」とは向日。

忍足はブレスレットを眺めるとためらい無く装着した。

「忍足さん!」
「着けろって言われたら着けるしかあらへんやろ。どーせ落としたら死ぬっちゅーんなら持つしかない。俺は死にとうないしな。」
「それは…そうですけど…。」
「どーせ持ち歩くんなら手首にはめてまうほうが安全やで?ちゃあんと手首にフィットするよう出来とるみたいや。」

そういって忍足はブレスレットをはめた手首をかざした。確かに手首にはまるようにある程度の大きさの調節ができるようだ。
他の4人も顔を見合わせて考えたが、忍足と同じ結論にいきつくと黙ってブレスレットを装着した。

彼らが装着して3分後--放送終了から5分後。再びスクリーンが表示され、王様が話しだした。

『えー、それでは今から鬼ごっこを開始しまーす。鬼は開始から5分後に解き放ちます。真っ黒い服を着てマスクを着けているのですぐにわかると思いマス!』

『鬼が出るのは……えーっと、コレ全国放送なんでしたね。……とりあえず皆さんはどこかしらの広場にいると思います。そして広場の前には建物がありますね?』

『最初はその建物の中に鬼が収容されています。ですから建物とは逆方向に逃げてください。
住人の皆さんには避難してもらったので思いっきり逃げていいですよ。
それでは…ゲームスタート!!!』

スタートのかけ声と共にサイレンが鳴る。
サイレンに驚き、1人、また1人と動きだしすぐに全員が遊園地と逆方向に走り出した。
鳳達も流れに沿って走り出す。

「これからどうしますか!?」
「とりあえずバラけるのはまずい!一緒に逃げるぞ!」
「せやな。まずは逃げて逃げて1時間を乗り切るで!細かい話はそっからや!」

命がけの鬼ごっこが始まった。残り59分。