日吉の休日 ※未完成(07/01更新)
天気は快晴。駅近くの通りはそこそこ大きく、駅に向かって店が隙間無く並んでいる。
日吉はその中の1件の店の前にたたずんでいた。
「よう。」
彼の後ろから声をかけた人が居た。
その声は土曜日である本日は聞くはずはなかったもの。
日吉は眉間に皺を寄せて渋々振り向いた。
「…跡部さん。」
声の持ち主は彼の部活の部長、跡部景吾であった。
「奇遇だな。こんな所でなにしてんだ?」
「それはこちらのセリフです。跡部さんが街を歩くなんて珍しいですね。」
「ああ、駅前のモールへ視察にいく。人が多いところでは車より徒歩の方が移動しやすいからな。近くで降りた。」
「モールってあの、最近できた…。」
数日前から駅前に大型のショッピングモールが出来たと近所の噂になっていたので日吉も存在は知っていた。
まさか跡部の管理している店だとは思わなかったが。
「そうだ。…若、お前暇か?俺様に付き合え。」
「暇じゃありません。買い物に行くんです!」
「買い物?どこだ。」
「……」
「言え。」
「…駅近くのスポーツ店へ。」
「それは○○スポーツか?」
「…はい。」
「俺様の店じゃねーの。だったらついでにそこも視察しておくか。」
「(…やっぱりか…)」
「よし、決まりだ!!若、俺様についてきな!!!」
かくして日吉は何故か跡部と共に駅前のモールへ出かける事となってしまった。
そんな2人を離れた位置からこっそりと見ている人影があった。
「あーあー若のやつとっつかまっちまったな。」
「あの2人で買い物とは…ちょっとおもろそうやな。」
「つかさ、何で隠れなきゃいけねーんだよ、忍足?」
「アホ!今のやりとり見たやろ。アイツらの前に現れたら引きずり込まれるわ。」
「いや、それはわかってっけど…そうじゃなくてさ、気付かれないうちにズラかろうぜ。」
「何言うとんの。こんなおもろそうなもん逃すワケいくかい。」
「えー…テニスどーすんだよ。」
「心配せんでもアイツらについていけばテニスやることになるわ。いつになるかはわからんけどな。」
「あ?何でそんなことわかんだよ。」
「ちょっとな…。それより早う追いかけんと見失ってまうわ。行くで宍戸!」
「ったく。」
「これじゃあ跡部に巻き込まれたも同然だ」と心の中で愚痴りながら、宍戸は喜々として歩き出す忍足と共に2人の尾行を開始した。
10:30 AM
あー…鬱陶しい、イライラする。
日吉と跡部は通りを歩いていた。
駅に近いだけあって昼夜問わず人通りが多い。土曜日なら尚更である。
それは駅に近ければ近い程比例して多くなる。
日吉のイライラもまた比例していた。
人ごみのせいもある。放置自転車のせいで歩きにくいせいもある。平気で道ばたにゴミを捨てる人間のせいもある。でも一番の原因は…。
日吉は前方を歩く原因の人物を睨みつけた。
原因の人物――跡部は周りの人ごみにうんざりした顔をしながら歩いている。
距離をとろうとゆっくりと歩きはじめると、後ろの気配が遠のいたことに気付いた跡部が立ち止まり振り返った。
「? どうした、若。」
「…オレはあの時どうして店に入らなかったのか、10分前の自分を恨んでいる所です。」
「はぁ?店??…そういやお前なんかの店の前にいたな。ありゃ何だ?」
「ファーストフード店です。買おうかぐだぐだ迷ってないでとっとと店に入ってしまえば良かった。」
「フード?腹減ってんのか?」
「いえ、ただ軽食が欲しかっただけなので、気にしないでください。」
「なんだ腹減ってイラついてたのか。」
人の話をきけ!それにイラついてるのはそのせいじゃない!!
…とは言えず日吉は黙り込んだ。
「確かモール内にいくつかレストランがあったな。視察のついでにメシにしよう。」
「はあ…。」
日吉が諦めのため息をついたその頃、忍足と宍戸は2人よりもやや後方の人壁に紛れこんでいた。
「俺、若が言いたい事わかったわ。」
「俺もや。とっとと店に入っとれば跡部に遭わずに済んだのにな。」
そう、10分前――その頃はちょうど跡部と日吉が出会った頃合いであった。
「それに相変わらずすげー視線だな…。俺だったら落ち着かねー。」
「せやな。見られる事に慣れてる人間は恐ろしいわ。」
跡部の容姿のせいで2人に周り(主に女性)の視線が集中していた。
跡部は普段から注目されることには慣れているので涼しい顔だが日吉はそうではない。
さきほどから好奇の視線に晒されていることが気になって気になって仕方が無かった。
コレも全て跡部さんのせいだ…!
恨みを込めて目の前でふんぞり返っているその人を睨みつけた。
「…オイ、何睨んでやがる。」
「別に。ただ、アンタがせめて私服じゃなくて氷帝ジャージでも着てれば良かったかもしれないと思っただけです。」
「は?なんで休みにまでジャージ着なきゃいけねーんだ。」
「アンタなら何着ても似合いますよ。」
「会話になってねーぞ。」
跡部の今の格好はミリタリーシャツにジーンズというラフな組み合わせで飾りはジーンズにつけている銀色のウォレットチェーンくらいなのだが、跡部が着て歩くだけでそれらはブランドものの服のような輝きを放つ。
ちなみに日吉はアンサンブルのシャツにハーフパンツというこれまた楽な格好である。同じラフな出で立ちでも跡部と並ぶと自分の格好が浮いて見えるのは気のせいではないだろう。
彼の容姿はさることながら立ち振る舞いもモデルさながらで、現に今も両手をポケットに入れて立っているだけなのに同性の日吉ですら目を奪われてしまってそれが悔しくて何か言おうと口を開いたときだった。
「あー、日吉と跡部!!何してんの?」
「この声…ジローさん?」
振り向けば2人を指差すジロー。
彼の隣にはガムを噛んでいる丸井もいた。
「てめえらこそこんなトコで何してんだ?」
「丸井くんとデートだC~♪」
「違うだろい。コイツとスイーツ店いくんだよ。ほら、最近出来たモール内の。」
「げっ…。」
「ん?どした?」
「何でもありません。」
「俺達も駅前のモールにいくところだ。そこでメシにする予定だからついでに奢ってやってもいいぜ。」
「マジマジ!?さすが跡部!!」
「太っ腹じゃん。」
「当然だ。」
日吉が危惧した通り、ジローと丸井も共に行動することになってしまった。
2人に出会った時点でこうなる運命だったのだと諦めてひとまずはこの場を脱することを提案した。
「…じゃあさっさと行きましょう。ここじゃ落ち着きませんし。」
言われて丸井と跡部も周りを見渡す。
「あー、確かにな。」
「確かに。人が多くてうぜえな。」
「いや人が多いっつーか…。」
「無駄ですよ丸井さん。慣れきっちゃって毛程も気にしてませんから。」
「…お前も苦労してんな。」
「もう慣れました。」
話し込んでるうちに4人の周りにはギャラリーがたまっていた。主に跡部を見る女性のものである。
跡部にとって注目される事は至極当然のことなので視線が鬱陶しいと感じることはあっても視線を浴びることには何の疑問もなかった。
よって現在ギャラリーに囲まれている状況も普通のことと思っている。
「まあ、そんな感性でもなければあそこまで派手なパフォーマンスはできねーだろい…。」
「ああ、アレか…。」
「アレね…。」
3人が遠い目で試合前の跡部を思い出してる中、跡部はただ1人頭の中で疑問符を浮かべていた。
*ちなみにその頃の忍足と宍戸
「ホンマ跡部は何着ても似合うとるな。羨ましいわ。」
「アイツが着るとただのジーパンもすげーカッコ良く見えるから不思議だよな。」
「やっぱスタイルと立ち方って大事やな。跡部の歩き方ってモデルみたいやし。」
「あー、ファッション誌に載ってるにーちゃんってあんな感じだよな。」
「宍戸もファッション興味あるん?」
「別に。この前クラスの奴らに見せられたんだよ!」
「そういうことにしとこか。」
「チッ…。」