ゆりこさんの手紙

これは俺の知り合いが体験した事なんだけど

俺の知り合い、Aとするけど
このAが友達4人と一緒に旅行に行ったんだよ
5人は同じサークルの仲間でさ、大学の休暇中のバカンスだったわけ
自然に囲まれた静かな田舎にある民宿に泊まったんだと
これだけでいかにも何か出そうだろ?
でも出たのは幽霊さんじゃなくて手紙だった

この手紙が不思議でさ、白い封筒に入ってていつの間にか誰も知らないうちに置かれてんだよ
封筒には宛て名のみで住所も差出人の記載もない

始めに置かれたのは旅行初日の昼の事だった
封筒にはAの名前
不思議に思いつつも5人は中身を取り出した
中に入ってた紙は普通の便せんで、でも書かれていたのは手紙というには短い文章だった
本文はたった2行だけだったんだ

「あなたは優柔不断すぎる
 私が求めるのは決断力がある方」

たったこれだけ
他に書かれていたのは宛て名と差出人の名前
差出人は「ゆりこ」という名前だった
5人はその名前に覚えはないから民宿の人に確認したんだけど
誰も手紙は置いてないっていうんだ

不思議だろ?部屋の5人とも手紙の主を知らない、彼らが置いたわけではない、民宿の人も違う。
じゃあ誰が置いたんだよ

5人もやっぱり気になってな、今度はゆりこって名前の人が泊まってるか訊いてみたんだが
そんな名前の客は誰一人として居なかったんだ

手紙は何かのイタズラって線で一旦おいとく事にした
テーブルの上に放って、飯食う為に部屋を出たんだ
再び部屋に戻るとテーブルの上の手紙が増えてる
新しい手紙はB宛だった

Aと同様の封筒、同様の手紙、同様に黒い文字で書かれた短い文章、同様の差出人「ゆりこ」
そして文章はこう

「あなたは我が儘すぎる
 私が求めるのは協調性がある方」

確かにBは多少自分本位なきらいがあったらしいが・・・これは余談だな

こんな手紙が続けばさすがに気味が悪いから宿泊所を変えようとした
だがあいにくレジャーシーズン、宿泊施設はどこも満員で変更は困難だった

宿泊所へ足止めを余儀なくされていた折、別の友達Cが女の幽霊を見たと言った
このCが幽霊をはっきり見れる奴でな、生きてる奴と同様に見えるから区別はつきにくいんだが
その女の事は一目で幽霊だとわかったって
何故なら女は純白のウェディングドレスを着ていたから
民宿にウェディングドレスってだけでも十分おかしいんだが、決め手はそこじゃない
腹部が血で真っ赤に染まっていたんだ
純白のドレスの真ん中だけが綺麗に赤く色づいていた
Cが驚いていると女はCの顔を見て微笑み、消えた

他の4人がCを見つけたとき、彼は廊下に座り込んでいた。
彼は自身の目撃した事を話すと「これはヤバイ」と、「直感で感じた」と言ったそうだ
「目を合わせてはいけなかったのだ」と

5人が部屋に戻るとまたテーブルの上に手紙が置かれていた
やっぱり誰も知らないうちに、だ
次はC宛だった
Cの話をきいた後だったから5人は怖々と手紙を開いた

文章は先の2通とは異なっていた

まず、文字色が違う
今までは黒い色だったのに今度は赤文字だ
それもまるで血で書かれたかのような・・・

そして文章の行数も内容も違う
Cの手紙に記載されていたのはたった1行だった

「みつけた 私の運命の人」

Cは手紙を読んだ途端、ひどく怯え始めた
他の4人もさすがに気味が悪くて、旅行を中止して帰宅しようという話になった

ところが宿泊所の近くで土砂崩れが起こって道路が塞がれたという
宿泊所は山あいにあって、街へ通じる道はその1本しかないんだ
5人は道路上を塞ぐ岩やら木を排除するまで宿泊所に居ざるを得なくなった

そうなるとCはますます怯えて、部屋に閉じこもるようになった
4人がどんなに言っても風呂とトイレ以外は部屋を出たがらなかった
そんな彼を一人にしておけずに付き添っていたんだが、部屋に閉じこもるのは退屈で、気晴らしに全員で卓球をする事にした
Cにも声をかけたが、やはり部屋から出たがらなかったので4人は彼を置いて出て行った
1時間程して様子を見に戻ると、部屋にいるはずのCがいない
彼の携帯とサイフは室内にあったので、きっと宿泊所内にいると思って捜索したがとうとう見つからなかった

それから間もなくの事だ
道を塞ぐ土砂は綺麗に片付けられ、元の様に通行できるようになった
すぐさま警察も来てCの捜索をしたがやはり見つからない
Cはこつ然と消えてしまった

消えたといえばもうひとつ、今まで届いていた3通の手紙もいつの間にか消えていた
Cが消えたと気付いてすぐに手紙を探したが見つからなかったんだ

Cが消えた事と手紙はやはり関係しているのだろうか?
ウェディングドレスの幽霊がゆりこで、彼女がCと手紙を持って行ったんだろうか?

Cの事は5年経った現在も捜索中だ
もしも同じ体験をした人が居たら情報を寄せて欲しい
そして、同じ手紙をもらった人が居たら気をつけて
もしかしたらその人も消えてしまうかもしれないから