1-Aの問題児

※風雲少年後日談模造。跡部とジローと宍戸が同じクラス設定

「あー、ムッカツク!!何なんだよあの跡部って奴!!!」

登校するなり宍戸は机の上へ思いっきり鞄を叩き付けながら叫んだ。
ドカッと音がするほど、鞄の形がひしゃげるほどそれはもう、豪快に。
宍戸の大声に周りの人間の注目が集まるが、多くの人間はすぐに興味を無くし各々の時間へ戻る。
だが宍戸の友人であり興味を引かれたジローはそのまま彼の愚痴にのってやることにした。

「跡部がどしたのー?」
「どうしたもこうしたも!覚えてるだろ?昨日の!!」

昨日と言われても色々と衝撃的な事がありすぎてどれのことだかわからない。
入学式でのまるで演説のような新入生代表挨拶もその時に彼が発した高らかな笑いも、豪華すぎる学校の施設もその豪華な施設は先の新入生代表による寄付だということも、跡部が入学早々テニス部を乗っ取ったことも彼がものすごくテニスがうまかったことも全てが衝撃的だった。

「昨日の」に該当するものが多すぎていつまでも考え込んでいると、宍戸は焦れたように話しだした。

「だ・か・ら!!テニス部に乗り込んできやがったことだよ!!!1年のくせにあんなことしていいと思ってんのか!生意気なんだよアイツ!!!」
「あー、そっちね…。でもまあ跡部が部の誰よりもテニスが上手かったのは事実だよね。」
「ぐっ…。…だけど年功序列とか、上下関係とか、そーゆーのがあんだろ!!強けりゃ何してもいいってもんじゃねーよ!」
「跡部は歳とかより実力を見るみたいだね。実力主義なんだねー。」

「そういう事だ。」

いつの間に教室に入ってきたのか。話題のその人がいつの間にやら2人の傍に立っていた。
跡部は驚きに目を見開いたまま固まっている2人をみてフフンと鼻で笑うと、高慢な態度はそのままに話しだした。

「たかだか歳がひとつふたつ上っていうだけで実力のない人間の下についてやる義理はねえ。強いものこそが上に立つべきだ。違うか?」

宍戸はこの言葉にカチンときて負けじと言い返す。

「違えよ!強いとか弱いとかそういう話じゃねえよ!俺が言ってんのは『先輩は敬え』ってことだ!例え自分より実力がないとしても、俺達よりひとつふたつしか違わなくても!」
「アーン?歳が少し上ってだけで敬う意味がわからねーな。」
「何でわからねえんだよ!ひとつふたつ上って事はそれだけ俺達より人生経験があるってことだろ。十分じゃねえか。」
「1年2年程度の差などすぐ埋まる。」

意味がわからない、心底あきれました、とでも言いたげな態度をとる跡部。
その様子に宍戸の怒りは最高潮に達した。
周囲の目もおかまいなしに喚き立てる。

「だー!つべこべ言ってんじゃねーよ!これだから外人は!!!いいか!少なくとも日本はこういう国なんだよ!!郷に入っては郷に従えって言葉知ってるか!?」
「そんな言葉ぐらい知ってる。それに俺は外人じゃねえ。れっきとした日本人だ。」
「あ?だってお前イギリスにいたんだろ?」
「確かにイギリスで暮らしていたが国籍は日本だ。俺は外人じゃなくて帰国子女だ、バーカ。」
「なっ!!誰がバカだ!バカって言う方がバカなんだよ、バーーーッカ!!!」

だんだんと話が逸れてきた2人を眺めてジローはあくびを零した。
年功序列について話していたハズだが…。今、彼らは互いをバカと言い合う事にちからを注いでいるようだ。
当初の目的はどこへやら…。

「ねー、そのバカらしい話まだ終わんないのー?うっさいんだけど。」

ジローが呆れつつ問いかければ、2人は同時に首を向け、これまた同時に言葉を発した。

「「誰がバカだ!!!」」
「わーお、息ぴったり。」
「「ぴったりじゃねー!!」」

ぴったりだって…。
ぐるる…と唸りながら睨み合う2人はとてもよく似ているようにジローには見えた。
仲良くなれないのは恐らく同族嫌悪という奴なのだろう。

それにしても、この跡部という少年は昨日の印象とはまるで別人だ。

昨日は高慢で傍若無人で、それでいて中1の割には大人びていて…、どこか別世界に生きる人間を連想させた。
ところがいま目の前にいる彼は昨日のような冷たさはなくむしろ熱い心の持ち主で、自分たちと同じ目線でケンカする中学生なのだとわかる。
高慢で傍若無人な態度はそのままだが。

2人のケンカに飽きてきたジローは分析をやめ、時間を確認しようと思い教室を見渡した。
そして教室内の全員が2人のケンカに注目していることに気付いた。
数人がこちらを伺っているのには気付いていたが、まさか室内全員の注目を集めていようとは思いもよらなかった。
周りの生徒は誰もが印象のズレを感じたようで驚きのまなざしで跡部を見ている。
そんな様子にはまったく気付いていないであろう2人に声をかけようとしたそのとき、教室の扉が開けられて出席簿を脇に抱えた担任が入室してきた。

「なんだなんだ?…ほら、席につけー!出席とるぞー。」

担任が手を叩きながら教室中に声をかけたのを合図に、生徒たちは自分の席へ着席していく。
もちろんジローも…彼らも。

「…チッ、HRの時間か。テメーのせいで朝の時間が無駄になったじゃねーか。」
「あ?テメーが悪いんだろ。文句あんならかかってこいよ。相手んなるぜ?」
「上等だ。部活でケリつけてやるよ。後悔すんなよ。」
「そっちこそな。昨日のようにはいかねーぜ?」

「跡部!宍戸!お前らさっさと座れ!!遅刻扱いにするぞ!」

担任の一声で2人は言い合いを止めて席についた。
登校時から続いていたケンカがようやく収まった事にクラスメイト達はホッと胸を撫で下ろし、同時に思った。
「コイツらには極力関わるまい」と…。

この日より跡部と宍戸の口喧嘩は1-Aの日常となり、授業中に爆睡しているジローと共に3人まとめて『1-Aの問題児』と呼ばれる様になるのであった。

*おまけ

「…ったく、この俺様としたことが……。問題児などと呼ばれるとは。ふがいねえ…。」
「こっちだってどっかのあほべ様のせいで迷惑してんだっての。」
「俺なんて2人のケンカには関係ないのに…。何で問題児なんだろ~?」

「「お前は自覚しろ!!!」」

「うう…何で2人ともこういう時だけ仲いいんだよ~……。」