短編集
- *邂逅 ※跡部が氷帝から青学に転校した後の大会の話
- *小さな仕返し/跡部とジロー(跡宍前提)
- *疑問/(※鳳宍風味ですがCPなし)
- *in放送室/宍戸と跡部と+α(会話文)
- *跡部転校パラレル2 ※邂逅より以前のお話/手塚視点
*
*邂逅
跡部が青学に転校したときからこんな日がくるかもしれないと思ってはいた。
できれば現実になって欲しくはなかったが・・・。
「シングルス2、氷帝・宍戸! 青学・跡部!」
審判のコールで2人がコートに立つ。氷帝学園の試合は独自のコールで騒がしくなるのが通例だが今は静寂につつまれている。
かつての部長の登場に誰もが声を出すことも忘れコート上の懐かしい姿を見ていた。
二人が一歩踏み出すごとに距離が縮まる。
本来ならば並び立つはずの二人が今はネットを挟み対峙している。
宍戸は氷帝を、跡部は青学を背負ってこの場に立っているのだ。
その事実にやるせなくなる気持ちを宍戸は必死に抑え込んでいた。
「・・・元気そうじゃねーの。少しは強くなったか?宍戸?」
「・・・ああ。もう去年までの俺じゃねーぜ?」
「そうか。せいぜい俺を楽しませろよ」
「言われなくても。・・・勝つのは氷帝だ」
「・・・・・・悪いが勝つのは俺だ」
ふいに跡部は周りを見渡したかと思えば、氷帝側の陣に向かって怒鳴り声をあげた。
「おい!!氷帝コールはどうした!!?」
ギャラリーは怒鳴り声に驚いたものの誰かがおそるおそる始めるとそれが波紋のように広がり、数秒後には普段と同様に氷帝コールが響き渡っていた。
違ったのは跡部はすでにジャージを脱いでおり、コールがはじまると早々にサービス位置についてしまったこと。
跡部がコート内にいるというのに200人のコールを受ける者は彼ではないということ。
それもまた、かつての王は今は倒すべき敵なのだということを意味していた。
「ザ・ベストオブワンセットマッチ!跡部トゥサーブ!」
審判のコールと共に試合が開始された。
氷帝に居た頃から氷の帝王と呼ばれていた跡部の強さは転校してもやはりかわらず。
宍戸も必死で食らいついたが倒すにはいたらず跡部勝利で試合は終了した。
自分に声をかけることなく自陣へと、氷帝ではなく青学側へと歩いて行く彼を宍戸は黙って見送るしかなかった。
跡部はベンチからジャージを拾いあげ、片手に持つと静かに退場した。
彼の手の下で揺れるジャージ。そこにプリントされた"SEIGAKU"の文字を見て、宍戸は敗北以上の重たい何かを感じずにはいられなかった。
青学側の応援席へ戻ってきた跡部に不二がニコリと微笑みながらタオルを差し出す。
跡部はタオルをひったくると乱暴に顔を拭いて頭に被せてベンチへと腰掛けた。
不二もそれにならい彼の隣に腰かける
「ねえ、跡部。さっきやらなかったね?アレ」
「アーン?」
「ほらジャージ脱ぐパフォーマンスだよ。そういえば青学きてから一度もやってないよね」
「・・・当然だろ。あれは"氷帝"コールだからな」
"青学"にいる俺には使う資格ねえよ。
跡部は不二から目を離しコートに顔を向けた。
「・・・勝つのは・・・・・・・・・青学だ」
ぽつりと呟かれたその言葉に不二は跡部のほうを振り向いた。
しかし見えたのは全てを遮断するように彼の頭にかけられたタオルのみ。
その下に隠された表情を窺うことはできなかった。
*小さな仕返し
「跡部跡部おもしろい話があんだよー。この前宍戸がねー。」
俺の言葉に反応した跡部は書類から目を離して俺を見あげた。
すぐに目は伏せられてしまったけれど、追っ払われないということは話を聞いてくれる合図。
…まあ、きく気がなくても勝手に喋るけどね。
「宍戸がさー、鳳とジョギングしてたんだよ。そしたらウンコ踏んでずっこけてんの。」
「…ククッ。」
笑った。よし、ちゃんと聞いてる。
「まじまじウケるっしょ!そんでさ近くにいた小学生が『帽子のにーちゃんウンコ踏んでこけてやんのー。ダッセー。』って言うからオレもう笑っちゃったよ。」
「クックク…。『ダセェ』か。確か宍戸の口癖は。」
「「激ダサ。」」
2人声を揃えて言ったあと一拍置いて吹き出した。
「し…宍戸の奴、自分が激ダサじゃねーの…ククッ。」
「鳳に必死で口止めしてんの。あっはは。でも残念、オレばっちり見ちゃったC~。後で岳人にも教えてやるんだ~。」
「お前に見られたのは運のつきだったな。」
「ある意味ウンはついたけどね。」
「ククッ…。」
「そんでさー、そのあと小学生達とサッカーやっちゃってんの。『うわー!ウンコボールくるぞー!気をつけろー。』とか言われてさ。宍戸も『食らえ!スーパーウンコシュート!!!』とか言っちゃってもうノリノリ。」
「ぶはっ……。ジョ、ジョギングはどうしたんだよ。」
「5時の鐘なるまで子供達とサッカーしててさ。終わったらまた走ってたよ。鳳に『どうよオレのウンコシュート!』とか言ってて、鳳は何とも言えない顔しててさ。もー、あん時の亮ちゃんのノリも鳳の顔も傑作!!」
わざと『亮ちゃん』と言い直し、名前の部分を少し強調して話してみる。
「クッ…はぁ、はぁ……。そういえばお前たまに宍戸の事を名前で呼ぶな?」
「んー?そお?気付かなかった。」
「今も呼んでたぞ。」
気付いたか。さすが跡部。
そうでなくちゃ困るケド。
「あー、昔っからそう呼んでるからなー、つい癖で出ちゃうのかも。」
「そういえばお前達は幼馴染みだったな。」
「うん、亮ちゃんってば小さい頃はまじ女の子みたいで可愛いかったC~♪だからちゃんづけで呼んでたら怒られたんだけど呼んでるうちに『もうそれでいいよ。』って言ってくれたから今も学校以外では亮ちゃんって呼んでる。」
「…そうか。」
「なになに?跡部シュンとしちゃってさ…もしかしてさみCの?跡部の事も景吾ちゃんって呼んであげよっか?」
「いらねーよバカ。」
だろうね。跡部は寂しいんじゃなくて俺が亮ちゃんって呼んでるのが嫌なんだよね。
自分は名字でしか呼べないのにね。
でもね、知ってるからって合わせてあげるほど俺はお人好しじゃないC。
俺と岳人のヒーローを奪った罪は重いんだからね!これからもたっくさんイジワルしてあげるC。
次は跡部の知らない小ちゃい小ちゃい頃の亮ちゃんのお話してあげようかな?
跡部の奴どんな顔するかな。
少しくらい悔しがってくれればいいな。
*疑問
宍戸は部活が始まるまでの少しの間を気の知れた部員とのんびりと過ごしていた。
思い思いにだらだらと過ごしてる中、向日が「そういえば」と話を切り出した。
「宍戸、お前ってさ、鳳と付き合ってんの?」
向日の爆弾発言に室内の時間が止まった。
「は!?んなわけねーだろ!!!」
「まーそうだよなあ」
「いきなり何言ってんだよ!!」
「実はクラスの女子がお前らの仲疑っててさ、確かめてこいって言われちまって・・・」
「疑うも何も男同士だぞ!何でそんな話になんだよ!!!」
「怒るなって!俺が言ったワケじゃねーんだからさ・・・。それに俺だって疑問に思ったから女子たちに理由を聞いたんだよ。その理由をきいて俺は少し納得した」
「理由?」
「ほら、お前いっつも鳳と一緒にいるだろ?」
「いつも一緒なわけじゃねーよ」
「でも部活中はずっと一緒だしそれ以外でも結構よく話してるよな?」
「うーん・・・・」
言われて自分の行動を思い返す。確かにそうかもしれない、が、そんな事は自分に限らず普通に誰もがする行動ではないか。
「まあ話すのはいいんだよ。でもお前らの場合それが単なる先輩後輩に見えないっつーか」
「必要以上に近くで話したりくっついたりしとるよな」
とつぜん忍足が口を挟んできた。
「そうそう。ゴミがついてたら口で言えばいいのに手でとってやったりしてるし。鳳も何するにも「宍戸の為なら喜んで~」って態度だし。あ、休日のテニスの約束とかも教室でやったりするだろ?そしたら周りは「休日も一緒かよ」って思うじゃん」
「あと宍戸は試合中に鳳に抱きついたりしとるな。あれも原因と違う?」
「・・・・・そんくらい普通だし。休日はお前らと遊ぶこともあるし!長太郎に抱きつくのは試合で盛り上がったときだけだし!お前らとも抱き合ったりするじゃん!つーかそれよりも普段ジローが俺にひっついてくるほうが多いだろ!!」
「まあ確かにな。でも俺らの場合は幼馴染みって周りも知ってるし、なんとなく3人でいるときとか跡部達の前ぐらいでしかそういうことしないじゃん?」
「そ・・・そうか?」
「そうだって」
「せやな。教室とかではあんま見かけんわ」
「でもさ、お前らは違うじゃん。鳳なんてどこに居ても「宍戸さん宍戸さん」ってひっついてくるし、お前も周り気にせず普通に頭なでたりするじゃん?そーゆーのが、知らない奴からみたら付き合ってるとかいう話になっちゃうんじゃねーの?」
言われてみれば・・・確かに自分は場所を意識せずにスキンシップをとりすぎていたかもしれない。
「それにあいつは後輩やろ?後輩ってのは特別に見えんねん。同学年やったらクラスに来とっても普通やけど後輩とか先輩やったら気になるやろ?」
忍足に言われて去年の光景を思い出した。跡部に用があるからとテニス部の先輩達がやたらと2年の教室に来ていた。確かに目立っていたな・・・。
宍戸が2人の話を聞いて昔を思い出していると部室のドアが外から開けられた。
「あ、宍戸さん。ここにいたんですか」
噂をすれば。話題のもう一人の主役が顔をのぞかせた。
「探しましたよ!・・・えっと、跡部さんが呼んでます。教室に来る様にと」
「・・・そっか、わかった」
「・・・?」
宍戸はそっけない返事をすると鳳の横を通り部室を出て行った。そのあまりのよそよそしさに宍戸の気に触ることをしてしまったのかと若干不安になり宍戸の傍にいた2人に訊ねた。
「あの・・・俺、なにかしたんでしょうか・・・・?」
「気にすんなって。色々悩む年頃なんだよ」
「はあ・・・」
先ほどまでの話を知らない鳳には向日の返答はさっぱり要領を得ず、頭のなかで無数の疑問符が浮かぶのであった。
※あとがき
室内にはジローもいる設定でした。どうせ寝てるから書かなくてもいいかと放置←
*in放送室
「なあ跡部、知ってるか?若の奴さいきんちょっと面倒になってるらしいぜ?」
「面倒?」
「ああ、同じ学年の奴らに絡まれてんだってさ。よく小競り合いとか起こるらしい」
「・・・そうか」
「助けねえの?」
「アイツが言ってこない限りはな」
「ふ~ん・・・」
「若は強いからな。アイツが何も言ってこないなら手をだす必要はない」
「よくわかってんだな」
「お前はどうだ?鳳が同じ目に合ってたら助けるのか?」
「ん~・・・どうだろうな・・・。少なくとも自分が同じ目にあってた時に助けられたらまるで『俺が弱い』って言われてるみてえだし・・・・・助けねえかな」
「だろう?だから放っておけばいいんだ」
「しっかしそいつらも勇気あるよなー。若の後ろに跡部がいるってわかってて若に手ぇ出すんだからよ」
「それはどうかな~?」
「うおっ!ジロー居たのか!?」
「居たC~」
「それより今のはどういう意味だ?」
「あ、そうそう。それはね・・・日吉の後ろに跡部が居るってのは知ってるけど跡部が日吉を助けるとは思ってないんじゃないかな?」
「はあ?可愛がってる後輩助けねーわけねーだろ。それともそいつら、跡部ならさっきのような結論出すって読んでたのかよ?」
「そうじゃなくて、根本的なところが違うの~」
「???」
「なんて言ったらいいのかな・・・・跡部が日吉を可愛がってるなんてソイツらは全然思ってないんじゃないかな?」
「あんだけ態度出てればわかるだろ」
「そりゃあ亮ちゃんと鳳みたいだったらすぐわかるだろうけどさ。日吉って普段は跡部に対して反抗的だしそっけないよね。跡部も必要以上にはかかわらないC。だから周りから見たら仲がいい先輩後輩には見えないんじゃないかな?」
「・・・じゃあ、跡部は若を可愛がってないって、むしろ嫌ってるって周りは思ってんのか?」
「そこまではわかんないけど・・・でも跡部が日吉を可愛がってる事を知ってるのは俺らレギュラーくらいだと思うよ~?」
「なるほど。それなら若に手を出せるわけだ・・・。『若に手を出す=跡部を敵に回す』って図式が成り立ってねーんじゃな」
「他校ならともかく、この学園で跡部を敵に回す度胸がある奴なんて居る訳ないC~」
「・・・ってワケみたいだけど、跡部どうする?」
「あ?」
「やっぱ助けねえの?」
「同じことだ。ソイツらがどう思っていようと、俺は若から助けを求められるまでは動かねえ」
「じゃあ、助けてって言われたら」
「相手を完膚なきまでに叩きのめす」
「「・・・ですよね~・・・・・・・・」」
「Σ!あ!話してたらもうこんな時間じゃん!昼休み終わっちまう!!」
「そうだな、戻るか」
「俺はもう少しここにいる~」
「ダメだ。放送室は鍵をしめて先生に返さないといけない。出ろ」
「いやいやいや、ツッコミ所はそこじゃないと思うぞ?放っておいたらコイツ5限サボるぞ?」
「宍戸、お前が教室まで連れていけ」
「へいへい」
後日
「若の奴さいきんは特に絡まれたりしてねえみてえだ」
「そうか」
「お前なにかしたの?」
「いや、特には何もしてねえがな」
「・・・あ、若と長太郎だ、おーい!」
「宍戸さん・・・に、跡部さん・・・」
「宍戸さん、跡部さん!こんにちは!」
「おう!お前はいつも元気だな!!・・・若、あのよ・・・」
「何ですか?」
「その・・・何だ。・・・・お前が変な奴に絡まれてるってきいたんだけどよ、最近どうだ?(知ってるけど本人にきかねえとな・・・)」
「特に何も・・・」
「そうなんですよ!お二人のおかげで日吉に絡んでた奴らすっかりビビっちゃって!!」
「「?」」
「この前放送室で日吉の話をしてたでしょう?放送で流れてきました」
「「え・・・?」」
「日吉に絡んでた奴らも放送きいてたみたいで、跡部さんが日吉についてると知ったらビビって逃げちゃったんですよw」
「ちょっと待て、長太郎。・・・放送って何だ?」
「放送は放送ですよ。全校放送」
「・・・どうやら機器の電源が入っていたようで、放送室での会話が全校放送でだだ漏れだったんですよ」
「マジで!?」
「「マジです」」
「(放送きいて跡部が後ろ盾になってるの知ってビビって逃げたってことは、結局跡部が何もしてなくても跡部のおかげで問題解決したってことか・・・。だから若の奴さっきから跡部を見てるのか)」
「・・・あの、跡部さん・・・・・・・」
「何だ?」
「あの・・・・・・・・ありがとう・・・ございました(ぽそり)」
「?・・・・・・・!!・・・ああ、どういたしまして(フッ)」
「(プイッ///)」
*あとがき いくらなんでもやっつけすぎた
*跡部転校パラレル2
俺は自分の目を疑った。
俺は幻をみているのか?他校生であるはずの彼が同じ教室内に居る。
彼の学校はブレザーのはずなのに、目の前の彼は俺と同じ漆黒の学ランを身にまとっているではないか。
「氷帝学園から転入してきた跡部景吾くんです。皆仲良くするように。」
空耳か?転入と言ったように聞こえたのは。
いいや、そんな事はない。自分の目が、耳が、空気が、周りの物全てがこれは現実だと告げている。
「跡部…。」
無意識に口から漏れたかすかな呟きを、敏い彼の耳は拾ったようだ。
氷のような青い瞳がこちらを突き刺す。
俺を視界にとらえた彼は可笑しそうに口元をつり上げて、俺の記憶通りの余裕の表情を浮かべた。
「手塚ぁ…。てめえこのクラスだったのか。」
跡部に向けられていたクラス中の視線が一斉に俺に向けられる。
担任は俺と跡部とを交互に見て訊ねた。
「手塚と知り合いなのか?」
「俺は氷帝テニス部で部長をしてましてね。青学レギュラーとは多少の親交が…っと、今は俺も青学だったな。」
「テニス部部長か!そういえば氷帝はテニスの強豪校らしいな。そこの部長が青学にきたとは…いや頼もしい!これは青学に敵なしだな!!」
何が頼もしいものか。
頼もしいと言うのは『跡部が仲間になれば』の話だろう。
つい先日まで氷帝の人間だった者がそう簡単に青学の人間になどなれるものか。
レギュラーとして学校の看板を背負って闘って来たんだぞ。学校に、チームに愛着が湧かないはずもない。まして部長なら尚更だ。
現に跡部は教師の言葉に表情では笑みを見せているものの目はまったく笑っていないじゃないか。
彼の表情など少しも気にしてない担任を苦々しげに見つめる。
担任はひとしきり褒めた所で教室の隅を指差しながら言った。
「手塚は我が校の生徒会長でね。何かあったら彼を頼ると良い。…では、跡部の席は…一番後ろ、廊下側の席が空いてるからあそこに座りなさい。」
跡部はゆっくりと教室の真ん中を歩き俺の席で立ち止まった。
自然と俺は顔を上に向け、自分を見下ろす彼のひややかな視線をとらえる。
彼は俺と視線が交わると口元を少しつり上げて奇麗な笑みを見せた。
「よろしく頼むぜ?生徒会長さんよ。」
「ああ…。」
席へ向かう彼の背を見て俺はこれが波乱の幕開けだと直感で感じたのだ。
*
「あっとべー♪あとべーが転入してきたって聞いて、来ちゃった★」
「こんにちは。」
「あーん?菊丸に不二か。」
一時間目を終えて数分の休憩にはいったばかり。教室の後ろの扉からひょっこりと顔をのぞかせたのは3-6コンビの不二と菊丸。
どうやら跡部転入の話をききつけて様子を見に来たようだ。
俺は授業道具を片付けながら彼らの会話に耳を傾けていた。
俺以外にも教室中の面々が3人の会話を気にしているのはわかる。
跡部は転入当初から近寄り難い雰囲気を出していたから皆話して良いものか迷っている雰囲気はあった。
その結果が今の遠巻きに怖々様子見している状態だ。
そこへ知り合いらしき二人がきたのでこれ幸いと様子をみることにしたのだ。
「跡部なんで青学にきたの?」
「てめえらに話す義理はねえ。」
ところが跡部の回答は何に対しても大体このように刺々しいものであった。
何故青学にきたのか、それは俺も気になっていたことなのだが…話したくないのならば仕方ない。
大方致し方ない事情あっての事だろう。そうでなければあれほどまでに氷帝に誇りを持っていた彼が青学にくるとは到底思えないのだから。
「あとべー、テニス部はいんの?」
「…ああ。部活には必ず入る必要があんだろ?だったらテニス以外ねえよ。」
「でもさー、テニス部はいんのはいいけど跡部、氷帝と闘えんの??」
菊丸の無神経な問いに俺は硬直した。
確かに青学にいれば氷帝と当たることもあるだろう。
跡部程の実力であればレギュラーをとることはほぼ間違いない。
となれば跡部が氷帝の面々と闘う可能性はどちらかと言えば高いのだから、菊丸がこのように考えるのは納得がいく。
しかし、それを転入初日に言う事はないだろう。
彼はこんなにも相手の気持ちを考えられない人だっただろうか。
俺は無意識に眉間を抑えた。
さらに驚いたのはこの後の不二の言葉である。
「…そうだね。今後氷帝と公式戦で当たることもあるかもしれない。それでも君は氷帝と闘えるかい?できないなら悪いけど君にレギュラーはまかせられないよ。」
「おいっ!不二!菊丸!!何言ってるんだ!!」
たまらず立ち上がって叫んだ。
ところが二人はまるで、おかしいのはこちらだと言わんばかりに驚いてみせた。
「手塚こそ何を言ってるんだい?青学にきたからには跡部は青学生なんだよ?跡部の実力なら間違いなくレギュラーだし、レギュラーは他校生と闘う、部活の要なんだ。そんなこと君だってよくわかってるでしょ?」
「…だが、転入初日にする話じゃないだろう?」
「する話だよ。跡部がテニス部に入部する以上、跡部の実力を鑑みればね。絶対にぶつかる壁だよ。」
「そーそー、俺は跡部がレギュラーでもかまわないけどねー。跡部強いしー。でも氷帝とあたったときにきちんと実力出せないと困るんだよね。俺だって負けたくないし。」
「…っ。」
俺が二の句をつげずにいると、不二が菊丸の肩を叩いて時計を指差した。
時計の針はあと数分で次の授業が始まることを示している。
二人は俺と跡部に軽く手を振ると教室へと帰っていった。
彼らが出て行ったことで俺の視線は自然と跡部を捉えた。
跡部はただただ机を見て微動だにしない。
その表情は僅かにこわばっているように見えた。
かける言葉も見つからずただ立ち尽くしていた俺の頭上で始業開始の鐘が鳴り響いた。